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『黄金期のアメリカ喜劇 #2「喜劇の王様たち」』と題し、スリルとナンセンスが入り交じるドタバタの喜劇映画を生演奏と併せて堪能!

2018年10月12日(金) レポート

10月12日(金)、大江能楽堂で『黄金期のアメリカ喜劇 #2「喜劇の王様たち」』と題して、3作の喜劇映画が上映されました。いずれも無声映画、青木タイセイさんと高良久美子さんによる音楽で賑やかに色付けしました。解説には喜劇映画研究会の新野敏也さんが登壇、知らない人も、より楽しめるエピソードなどを披露されました。

清水圭のMCでスタート。青木さんは、「映画に伴奏をつけるのは、自分のタイミングではないところでいい音を出す難しさがあります」と奏者の感想を。高良さんも打楽器を使用する際に画面を見過ぎて思わず違う楽器を叩いてしまいそうになるとか。「今日はポンコツ感のある楽器もあります!」と喜劇映画をさらに盛り上げてくれることを約束されました。

1本目は『ノートルダムの仲立ち男』です。「タイトルがまず奇怪」と新野さん。この作品の1年前に『ノートルダムのせむし男』、原題『ハンチバック・ノートルダム』が発表されました。『ノートルダムの仲立ち男』の原題が『ハーフバック・ノートルダム』ということから、タイトルは洒落でつけられていると解説。ノートルダムとは当時のフットボールの常勝校の名前です。邦題『ノートルダムの仲立ち男』は新野さんが命名されたそうです。本作の製作者は喜劇映画の帝王と言われるマック・セネットで、不条理とカオスに満ちたスラップスティック・コメディ(ドタバタ喜劇)です。真面目にストーリーを追うこと自体がナンセンスと思うほどに、徹底したボケと一発芸的ギャグが物語進行の推進力となる、映画黎明期の娯楽要素を満載した狂騒劇。ギャグ・アニメにも影響を与えた特殊効果も必見です。

上映中は青木さんと高良さんがシーンにピッタリなサウンドでより盛り上げました。動きに合わせて太鼓や鈴が鳴ったり、躍動感ある音色で楽しませてくれました。また、ドタバタとは逆のゆったりとしたメロディという、想像を覆すような音色を奏でるお二人。映像と音のマジックで様々な効果音が鳴り響いているような、作品に深い奥行きをもたらしました。

「道化師が集まったコテコテなところがこの映画の魅力です」と新野さん。実はノートルダムがどこにも入ってないと盛り上がりました。また、随所にアニメの演出もありましたが、もちろんCGがない時代、初期のアニメーションの合成技術を使っているそうです。新野さんは「くだらないことを真面目にやっているところがすごい」と声を弾ませます。高良さんも「ドタバタのところは、こっちも本気でくだらなさを表現しました!」と感想を語られました。

『ラリーの雑貨屋』はラリー・シモンという役者が手がけた喜劇で、1920年の公開当時、チャップリンたちよりも人気があった人物です。谷崎潤一郎が彼の大ファンで、親交のあった稲垣足穗さんにも紹介したというエピソードも残されているとか。ラリー・シモンは夭折したため無名に近い喜劇役者ですが、知る人ぞ知るレジェンド。『ラリーの雑貨屋』でもサーカスのような曲芸と映画のスペクタクル性を結合させたハチャメチャな展開で魅せていきます。

チャイムのような効果音で上映スタート、それはどこへ向かうか分からない展開を象徴するような瞬間でした。高良さんのピアノでストーリー展開を、青木さんのトロンボーンや打楽器で状況やハプニングを色付けして進みます。ドミノ倒しのような展開にハラハラドキドキ、“まばたき厳禁”の壮絶な展開に会場からは大きな笑い声がもれました。また、青木さん、高良さんの演奏がなおさら想像を駆り立て、役者たちのセリフまで聞こえてくるようでした。

上映後に「不思議な世界でしたね」と清水。「予定調和的に面白いのも作品の特徴ですね」と新野さん。「曲にはモチーフがあるのですが、あとはアドリブでした」と高良さん。最初は高良さんと青木さんで合わせていましたが、あとはそれぞれセッションで展開したそうです。

最後はボケとツッコミの始祖が贈る最狂傑作『ローレル&ハーディのリバティ』。ローレルとハーディのコンビが漂わす2人だけの距離感、価値観、リズム感が周囲を混乱に陥れ、ヒステリックでシニカルな破壊の無限連鎖へとつながる作品です。ヒロイン不在の展開、絶望、不条理、狂乱などなど、呼吸困難になるほど「毒気の笑い」が繰り広げられる“ヤバイ”短編映画です。日本ではローレル&ハーディの絶頂期を過ぎたころに公開されたため、当時はあまり人気がなかったそうですが、古い作品が出てきたことから若い世代を中心に徐々に人気が出てきたそうです。

囚人服を着た二人が脱獄する場面から始まります。示し合わせた車に乗り込み、洋服に着替えるのですが、体の大きさが異なる二人がズボンを取り違えてしまったことから抱腹絶倒の悲劇が展開していきます。躍動感とスリルを併せ持った高良さんのピアノ伴奏、コミカルに二人の心情や状況を描く青木さんのトロンボーンやピアニカ。スリリングな場面ではドキッとするような音使いもあり、まるでサントラを聞いているようでした。会場は徐々に笑い声が大きくなり、クライマックスの高所の場面では悲鳴と笑い声が入り交じり、熱気に包まれました。そして予想外のオチでも大爆笑。ブラックな表現に驚きの声も上がりました。

上映後、青木さんに演奏のご感想を訪ねると、「最後の方は手に汗をかいちゃいました」と、一緒にスリルを楽しまれたご様子です。高所で足がすくむという演技をマイムで見せるのは相当な技量という新野さんの解説には「お~」という感心する声が上がりました。「前の作品2つは道化師ですが、ローレル&ハーディが出てきてからボケとツッコミが出てくるようになりました」と映画の歴史においても貴重な作品であることを明かされました。「みんなで笑って観るのが楽しかったです」と新野さんの言葉通り、映画と生演奏で一体感も堪能した時間となりました。

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