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ピアノ伴奏も楽しみながら三大喜劇王の一人、ハロルド・ロイドの幻の初期作品と隆盛期の代表作を2本立てで堪能!

2018年10月12日(金) レポート

10月12日(金)、大江能楽堂では『黄金期のアメリカ喜劇』#1が行われ、「喜劇映画の貴公子 ハロルド・ロイド特集」と題して、短編、長編のロイド映画が上映されました。ゲストはピアノ演奏の柳下美恵さんと喜劇映画研究会の新野敏也さん。清水圭のMCのもと、まずは新野さんによる作品紹介がありました。チャップリン、キートン、ロイドと「三大喜劇王」と言われる中で、ハロルド・ロイドだけが映画の開始以降に活躍した役者で、「ロイド眼鏡」のロイドはハロルド・ロイドから来ていると新野さん。

柳下さんに伴奏について伺うと、「日本では無声映画に弁士さんがついていますが、音楽だけというのは欧米式の見せ方です。日本の無声映画の場合は控えめに、アメリカの場合は物語もハチャメチャなので、はっちゃけるように演奏しています」と作風に合わせて自在に変えているとのこと。最初に上映される『ロンサム・リュークの爆裂映画館』ではピアノ伴奏のシーンがあり、そのシーンに合わせた演奏もしていると見どころも教えてくださいました。

1本目は、ハロルド・ロイドがまだ自身のスタイルを確立する前、試行錯誤していた時期のコメディ『ロンサム・リュークの爆裂映画館』です。チャップリンの亜流キャラクター「ロンサム・リューク」として、チョビ髭とピチピチの衣装で暴れまくっていた若き日のロイド作品。「この時期のロイドのフィルムはほとんど現存していないことから、今回の上映は映画史の上でも大変に貴重な機会となりました」と新野さん。続けて、さらに詳しい作品説明もあり、「ロイドがまだ洗練されていない、すごく暴力的な役者で、若い勢いだけでやっている姿をお楽しみいただけると思います」。そんなロイド作品に即興で伴奏をつける柳下さん。清水は「柳下さんの体調や気分によっても変わってくると思う」と、この日しかないサウンドにも期待感を抱きました。

上映中ではコミカルなシーンに合わせて弾むようなサウンドで色づけされる柳下さん。即興でありながら作品のために既に作られた音楽のようなはまり具合で、さらに映画の世界に没頭できました。

上映が終わると、「短い中でも楽しみがあったと思います。容姿はチャップリンに似ていますが、パントマイムという身体表現の基礎を全く持っていないので勢いだけで進めています。ですが、これが『要心無用』を作るきっかけに繋がりました」と、2本目に上映される『要心無用』へと誘いました。

続いて、緻密な構成、スピーディな展開、エスプリの効いたギャグ、そして驚愕のクライマックスと、映画史上、最も完成度の高い喜劇と称賛されるハロルド・ロイドの代表作『要心無用』です。徹底的に道化劇を排し、洗練されたギャグの猛攻が凡俗に陥りがちな純愛物語を悪夢のアクション大作に急転させる、シチュエーション・コメディ(状況喜劇)の軌範とも言われている作品で、上映後には、クライマックスの撮影方法を解き明かす特別解説も行われました。

「サーカス出身の俳優はアクロバットや超人的な技ができますが、ロイドはそれができないので、道化師として自分は埋もれると思って悩んで、身体表現の基礎がないこと、アクロバットができないことをどうカバーするか考えて出てきたのが、“普通の人”でした。道化を一切排除することで、笑わせ方をすごく練りました。この作品もハラハラドキドキする場面がありますが、アクロバティックな見せ方ではないので、見ている自分も同じ目に遭っているような感覚も味わえると思います」と新野さん。続けて、100年近く前に作られたとは思えないクオリティだと期待も煽りました。

柳下さんは「『ロンサム・リュークの爆裂映画館』はパンクみたいな感じで弾けてみたのですが、次は長編なので、演奏にテーマを作りました。基本的には即興ですが、素材を生かした演奏にしたいですね」と意気込みを語りました。

「映画史上最高の喜劇作です」と清水がいざない上映へ。人間味あふれるラブロマンスで、彼女にいいところを見せようとするばっかりに、様々なトラブルを起こすロイドの姿に終始笑いが絶えず、見どころでもあったクライマックスの場面では、その場でビルを登る人を見ているかのような臨場感と躍動感もありました。

テンポよく次々と場面が変わることから「ちょっと息が切れそうです。でもお客さんの笑い声で楽しくできました!」と上映後に柳下さん。新野さんも「古臭く見えないですよね。チャップリンの映画は昔の映画かなと思いますが、この作品は他と作り方が違います。昔の作品に見えない、今っぽく見えるのは、この『要心無用』が今の映画の礎になっているからです」とさらに詳しく紐解かれました。当時の生活感や文化も記録されているところも見どころの一つだと明かされました。

『要心無用』のトリビアでは、高層ビルを登るシーンで顔が映るところはロイド本人が、ロングショットはスタントマンが演じていると明かす新野さん。ほかにも、よく見ると実はロイドとスタントマンが入れ替わっているなど、様々なトリビアで楽しませてくれました。高層シーンの撮影はロイドが亡くなるまで一切、その手法が明かされることがなかったそうですが、その手法の効果で臨場感のある場面になっていると続けました。

「約100年前の作品を、今年で建立110年を迎える大江能楽堂で観るというのも乙でしたね」と清水が語ると、「感慨深かったです」と噛みしめるように話す新野さん。「この映画は、昔から何回も観ていますが、改めて大きいスクリーンでみんなと笑って観ることができて面白かったです」という新野さんのコメントに、誰もが大きくうなずいていました。

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