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日本映画に新たな歴史を残す特別招待作品『兄消える』ワールド・プレミア&舞台挨拶

2018年10月13日(土) レポート

10月13日(土)、T・ジョイ京都にて特別招待作品『兄消える』の上映前に舞台挨拶が行われ、主演の兄・金之助を演じた柳澤愼一さん、樹里役の土屋貴子さん、プロデューサーの新田博邦さんが登壇しました。MCは、アッパレード・木尾が務めました。

日本を代表する舞台演出家、文学座の西川信廣氏が監督を務め、芥川賞候補5回、第40回川端康成文学賞、第38回野間文芸新人賞受賞の若手舞台人、戌井昭人氏が脚本を書き上げた今作。85歳の柳澤愼一と75歳の高橋長英がダブル主演し、対照的な性格の老兄弟の確執と絆を描く本作は、リリアン・ギッシュ(当時93歳)、ベティ・デイヴィス(当時79歳)が姉妹を演じた名作『八月の鯨』(1987年)を彷彿とさせる、心にしみる感動作となっています。

今回60年ぶりの主演となる柳澤愼一さんがスクリーン前に姿を現すと集まったお客さんから、あたたかい拍手が起こります。役名と合わせた自己紹介の中で、柳澤さんは「ありきたりの挨拶ではつまらないので」と前置きし、同時刻に大江能楽堂で上映されている無声映画に敬意を現し、大江能楽堂の方角を向き杖を置く柳澤さん。会場には緊張感が漂います。すると「大きなスクリーンに無声映画が映されていることを想像しながら観てください」と見事な活弁を披露。その熱意のこもった演技とサービス精神に大きな拍手が送られました。「今日のお客さんは活弁も観られて、映画『兄消える』も観られてだいぶお得ですね!」と木尾。

60年ぶりの主演ということで、「オファーが来た時どう思いましたか?」という木尾の質問に対し、絶対断ろうと思っていた60年ぶりにセリフを覚えるなんて…と柳澤さん。「しかし素晴らしい理念をお持ちの新田プロデューサーの熱意が伝わり、これは断れないなと。つい引きずりこまれてしまいました」演じてみての感想については、「映画をご覧になって判断してください」と答えました。

兄・金之助が突然連れて帰ってくる訳あり風の若い女、樹里を演じた土屋さんは85歳の柳澤さんと75歳の高橋さんという大先輩ふたりとの共演の感想を。「柳澤さんから撮影前にお手紙をもらったんです。緊張しているだろうとお気遣いいただいて。その温かい人柄に触れ、すぐにご一緒させていただくことが楽しみになりました」と心温まるエピソードを語り、おかげで自然な距離感で演じることができたと感謝を述べます。

この作品の構想はなんと12年ということで、そのキャスティングの経緯を聞かれた新田プロデューサーは「『八月の鯨(1987年公開・リンゼイ・アンダーソン監督)』の爺さん版をつくりたいなあとずっと思っていたんです。いろいろな作家に書いてもらったり、自分でもキャスティングを考えたりしましたが、なかなかうまくいかなかったんです」ときっかけを語り、「ある時、文学座の戌井市郎氏の孫である戌井昭人さんがすばらい作品を作ってくれたので、これは、新鮮なキャスティングがいいなと考えて。とにかく歳がいっている人がいいと。80歳以上がいいなと。そして、子どものころに観ていた憧れの柳澤愼一さんを思いつきました」と続けます。しかし、柳澤さんを探し当てるまでには、なんと1ヶ月以上かかったとのこと。「どこを探してもいないんです。昔ジャズ歌手だったこともあり、長老の音楽評論家のとある人に電話したんです。この人が知らなかったらもう無理だろうと思って諦めようと思っていたところで辿りついたんです!」という驚きの逸話とともに、「柳澤さんにお会いできた時は幸せでした」と感慨深く語りました。

上映前ということであまりネタバレはできないことをふまえ、「この作品に対する想いは?」と質問する木尾。柳澤さんは、「重い質問だな(笑)」とジョークを交えたあと、「この映画をご覧になって、柳澤愼一のことをキライにならないでいただきたいですね」と役のイメージを表現しました。

土屋さんは、「(金之助とは)30歳以上歳が離れているんですが、最初は、年の差カップルってどうなの?と思っていたんです。しかし、演じていてあるんだなと。撮影終わったあと、金ちゃんに会いたいなあと思いました」と役に入りこめた様子。「それぞれの感じ方でじっくり観ていただけたら」と締めくくりました。

新田プロデューサーは、最後に「これだけ骨太の日本映画はめずらしいと思います。(ロケをした)信州・上田市にいい昭和がありました。これだという映画ができました」と太鼓判。

「みなさんが世界で一番初めにこの映画を観ていただくお客さんです」と土屋さんも続け、「是非宣伝してこの映画をかわいがってください」とアピール。最後に柳澤さんは、「心の中に長く留めていただき、この映画よかったなと言っていただけるとうれしい」と真摯に想いを語りました。「ワールド・プレミアということで私達もちゃんと観るのは今日が初めてです」と新田さん。舞台挨拶終了後は、ゲストの3人も客席に移動し、お客さんと一緒に映画を鑑賞。貴重なひとときを過ごしました。

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